2005年9月のこと。稚内で仕事をしていたが、土曜の午後から体が空き、日曜日も休むことになった。そこで思いついたのが礼文島への再訪だった。そして礼文岳を登ろうと考えた。礼文岳なら日曜日に日帰りで行けそうだったが、稚内で泊まるのも礼文島で泊まるのも同じ事なので、急きょ礼文島の民宿に泊まることにした。土曜の午後の空はどんよりと曇っており、フェリーから見る西の海は利尻島も礼文島も山の頂は雲が包んでいた。そして前回と同じく薄暗い空の下での香深港上陸となった。予約した民宿は香深港に近い所だったので、港から歩いて行った。土曜の夜とあって混雑を考えていたのだが、客は他に一人と寂しい夕べだった。気になるのは翌日の天気だったが、昼頃より晴れるとの予想を聞いて安心して寝に着いた。
民宿で目ざめたのは6時ごろ。外を見ると上空はすっかりガスだった。ただ天気予報の曇りのち晴れを期待して7時半に宿を離れた。フェリー乗り場始発の7時45分のバスに乗り込むと、他には客は居らず貸し切り状態だった。天気はと言うと、東の空には青空が見られ、上空も薄晴れに変わろうとしていた。天気予報通り徐々に良くなっているようだったが、山の方向はまだまだ厚い雲で高い部分にはガスがかかっていた。およそ25分で内路バス停に着いた。内路集落はひっそりとしていたが、この日は衆議院選挙の投票日とあって、投票所の前で幾人かの人を見た。バス停前に登山口の標識があり、探すことも無く登山道へと向かえた。始めは丸太の階段で始まり、すぐにつづら折れ道となった。足元には内路集落が見えている。丘の上に出ると、後はほとんど平坦と言える山道が山頂方向に続いていた。周囲はクマザサで、そこにダケカンバやカラマツが林を作っていた。歩くほどに上空に青空が広がってきて林を明るく照らした。緩やかな道に優しげな林の風景はまるで森をハイキングしているようで、この伸びやかさを味わえただけでも北の島に来た甲斐があったと思えた。なお、この日の気温は20℃を越しており、この季節としては異様に高い気温だった。すぐに汗ばんできたが、花の季節は終わっていた。替わりに色々なキノコが顔を出していた。暫くはこの森の小径で続いていたが、中程を過ぎると高い木が少なくなり展望が良くなって来た。前方になだらかな山容のピークが見えて来て、これが山頂かと惑わされたが、その背後のガスが薄れ出すと、そのピークの後ろに一段高いピークが現れた。どうやらそちらが山頂のようだった。まずは始めに見えたピークへと登って行く。少し傾斜もきつくなって漸く山に登る雰囲気となって来た。辺りは雑木が減り、そしてクマザサに替わってハイマツが目に付くようになった。すっかり展望が良くなり、すっきりと周囲が眺められるようになった。手前のピークを越すと、辺りはもうハイマツだけで視界を遮るものは無くなった。山頂が近づくと傾斜は更にきつくなったが、休まず一気に登って行った。そして歩き始めてからおよそ1時間半で山頂到着となった。それまでも好展望で歩いて来ていたが、山頂は一段と素晴らしかった。着いたときは他には誰もいなかったため、正に360度と言える展望を独り占めだった。西は海岸線が近く、日本海が広がっている。北はスコトン岬まですんなりと見えており、東は登って来た尾根が明るく光って、その先はやはり海が広がっている。ただ南はまだガス空で、利尻山はと探すと、ガス雲の中に山頂部がわずかに覗いていた。まだ時間は10時前と早く、帰りもバスの予定で、その13時前のバスに間に合わせればよく、山頂に1時間以上はゆっくり出来そうだった。改めて山頂を見ると、中央が裸地で開けており適度に岩場もあった。また裸地の中央に一等三角点(点名・礼文岳)があって、その傍らに小さな地蔵さんが置かれていた。小さな岩に腰掛けてのんびり過ごしていると、その間にも天気はますます良くなって上空の薄雲はすっかり消えてきた。南の空のガスも次第に薄れてきて、そこに利尻山が全貌を現した。涼しい風に吹かれながら、その天気の変わりゆく様をじっとながめていた。陽が高くなるにつれ海が青さを増すのも良かった。この山頂で結局70分ほど過ごしたが、その間に登って来たのは、単独登山者が3名と夫婦の登山者が一組だった。いずれも朝一番のフェリーで来て、タクシーで登山口まで来たとのことだった。下山は内路コースの途中から分かれる起登臼コースを下ろうかとも考えたが、荒れているとのことなので無難に内路コースで戻ることにした。昼が近くなって気温は25℃近くになっており、半袖でも十分に汗ばむ暑さになっていた。もう雲一つ無い空で、南の海にはすっきりと利尻山が浮かんでいた。そしてダケカンバ林が明るい森へとのんびりと下って行った。
バスで香深港に戻ってきたのは13時過ぎのこと。予定していたフェリーの時間までまだ3時間ほどあった。そこで思い付いたのは香深港に近い景勝地の桃岩展望台を訪れることだった。タクシーで行ってもよかったが、距離も僅かなことであり港から歩いて行くことにした。そのハイキングの様子も下の写真帳に納めているのでご覧下さい。展望台からは利尻島がすっきりと眺められるなど十分に行く価値のある展望を楽しむと、16時20分発のフェリーで礼文島を後にした。
(2005/10記)(2009/7改訂)(2021/10写真改訂) |