北アルプスの水晶岳はどの登山口からもなかなかに遠い山で、どのコースであっても前日に近くの山小屋まで移動し、二日目となって漸くアプローチ出来る山だった。その水晶岳を目指したのは2019年の夏シーズンのことで、登山口は新穂高とした。その登山は二つに分けることが出来、前半は鷲羽岳登山をメインとし、その後に水晶岳登山に移った。その前半部分は「鷲羽岳」の項に記したので、ここでは三日目からの登山について記述することにした。
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(8月1日) 三日目は三俣山荘で朝を迎えた。前日に続いて晴れの予想出来る空で、朝の空にガスを少し見るものの、鷲羽岳をすっきりと見るだけでなく、小屋の前からは槍ヶ岳もはっきりと見えていた。この日の目的の水晶岳は三俣山荘からは少し離れているため、メインザックは小屋にデポして、サブザックで行動することにした。小屋を離れたのは5時半過ぎのこと。一般的には鷲羽岳を登るコースを歩いて行くのだが、前日に鷲羽岳を登っていたので、沢へと下りる黒部川源流コースを歩くことにした。コースタイムとしてはこちらの方がワリモ北分岐まで1時間ほど早く着けるようだった。始めにテント場の方向に歩き、テント場から沢への道が分かれた。そこからの登山の様子は下の写真帳に委ねるので、ここではコース状況を記すに止めたい。テント場から北の方向に150mほど下って沢に下り着くと、そこにあったのは「黒部川水源地標」の石碑だった。そして北東へと沢筋を登って行く。沢筋の気温は10℃と低く、草は朝露に濡れていた。そのためけっこうズボンを濡らすことになった。振り返ると黒部五郎岳がすっきりと眺められた。岩苔乗越で雲ノ平コースが合流し、そこより僅かに登った位置で鷲羽岳から続く尾根コースに合流した。そこがワリモ北分岐だった。三俣山荘から50分だったので、コースタイムよりも20分ほど早く着けたようだった。ただコースの印象としては石がごろごろしていたので、足への負担は大きかったと言えた。その先は暫くは易しい道で、緩やかな上り坂だった。早朝に漂っていたガスは消えており、もうすっかり快晴だった。行く手に水晶岳がくっきりと見えていた。ワリモ北分岐から水晶小屋まで35分だった。水晶小屋で小休止をとった。水晶小屋から先が水晶岳登山のハイライトで、水晶岳が間近になると岩場が連続した。特に危険な箇所は無いものの、十分に慎重さは必要だった。ただ登山者は少ないようで、すれ違いに苦労するようなことは無かった。そして水晶小屋から37分で水晶岳山頂に到着となった。山頂も人は少なく数人を見るだけだった。快晴は続いており、360度の眺望を楽しむことになった。なお水晶岳山頂は二つに分かれており、先に着いたピークが最高点で標高は2986mだった。そこには三角点は無く、その先の若干低いピークで三等三角点(点名・水昌山)を見た。こちらの標高は2978mだった。水晶岳では30分ほど過ごしたが、常に数人しかいない山頂でずっと静かに過ごせた。後は戻るだけだった。水晶岳へと戻り更にワリモ北分岐まで戻ると、そこからは尾根コースに入った。まずはワリモ岳へと70mほど登った。登山道はワリモ岳の山頂を通っておらず、山頂近くを通っていた。その先にあるのは鷲羽岳で、ワリモ岳の位置からだと70mほど下って120mほど登り返すことになった。鷲羽岳への道は水晶岳と違って岩場と言えそうな所は無かったので、ゆっくりとさえ登れば足を止めることもなく登って行けた。鷲羽岳山頂には水晶小屋から100分での到着だった。その鷲羽岳に着く少し前よりガスが広がり出しており、山頂に着いたときは周囲はほぼガスに閉ざされていた。その鷲羽岳からの展望は前日に十分楽しんでいたので、展望の無いことを特に残念と思うことは無かった。むしろガスが陽射しを遮ったことで、涼しく過ごせることが有り難かった。後は前日と同じ道を歩いて三俣山荘へと下って行くだけだった。三俣山荘に戻ってきたのは12時半過ぎのこと。13時を回っておれば三俣山荘を連泊することにしていたのだが、双六小屋まで移動する時間は十分に残っていたので、もうひとがんばりと双六小屋に向かうことにした。サブザックをメインザックに納め、メインザックを担いで三俣山荘を後にした。ガスが漂う中をまずは三俣峠へとずっと上り坂だった。前日は下り坂だったので35分で歩いていたが、200mほど登るとあって50分ほどかかることになった。三俣峠からは前日とはコースを変えて三俣蓮華岳を通るコース歩くことにした。そのため三俣峠から更に100mほど登ることになった。もう行き足が付いていたので休まず歩くと、三俣峠から15分で三俣蓮華岳に到着した。山頂は広々としており、そこに着いたときは陽射しがあって暑い山頂だった。その山頂部こそ明るかったが、周囲はガスが立ち込めており展望は無かった。暫く休んでいると陽射しは消えてきた。後は丸山へと尾根歩きで、終始ガスの中だった。これは有り難く暑さを気にすることもなく歩けたのは良かった。丸山はほぼハイマツ帯で、登山コースはピークの近くを通っていた。丸山を過ぎると緩やかな下り坂となり、途中で双六岳への道が分かれた。もう双六岳に向かう気力は無く、中道コースで双六小屋を目指した。更に緩やかに下ってコバイケイソウの茂る所を通ると、双六岳からのコースが合流する中道分岐が現れた。その少し先で巻き道コースが合流すると、もう双六小屋までは10分ほどの距離だった。そして16時前に双六小屋到着となった。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(8月2日)この日は下山日。双六小屋では4時過ぎに目覚めたが、急ぐ必要は無かったので七割方の登山者が出発した後の6時過ぎに小屋を離れた。前の二日と違って朝の空にはガスが多くあり、近くの尾根しか見えなかった。それでも上空にはうっすら青空が見えたので、この日も晴れると思われた。下山とあって双六池のそばを通り、弓折岳分岐へと上り坂に入った。三日前の逆順だった。尾根上に出ると南へと向かった。周囲はガスが漂っており展望の無い尾根歩きだった。すれ違うのは鏡平小屋からの登山者と思えた。展望が現れたのは弓折岳分岐から小池新道に入った辺りからで、東の空に槍ヶ岳を見るようになった。足下には鏡平小屋も見えていた。更に下ると槍から穂高へと続く尾根が雄大に見えるまでになった。鏡平小屋を過ぎると、この日に麓からスタートしたと思われる登山者とどんどんすれ違うようになった。その数は百人を優に越えていると思われた。下るうちにガス帯を抜け出すと、後は陽射しを浴びての下山だった。こちらは下る方向だったが、登って来る人には厳しい天気だった。その下る途中のオアシスは秩父沢で、そこを流れる水は雪渓の水とあって何とも冷たく美味だった。その秩父沢より更に45分ほど下って漸く登山口となる小池新道入口に着いた。そして林道歩きに移った。林道に入って20分でわさび平小屋の前に出ることになり、更に70分歩いて新穂高センターに戻ってきた。12時になっており、標高1100mの新穂高と言えども30℃を越す暑さだった。下山届を済ませて駐車場に戻ると、四日分の汗を流すため駐車場そばの深山荘でひと風呂浴びた。そして自宅へと帰路についた。途中渋滞はあったものの午後9時には無事自宅に到着出来た。以前から熱望していた鷲羽岳、水晶岳をつつがなく登り終えただけに、満足感十分の帰宅だった。
(2022/1記) |