秋晴れの澄み切った空の下、勇躍、蕎麦粒山を目指したのは2006年10月15日だった。そのとき参考にしたガイドブックは「名古屋周辺の山」。その登山が最初からつまづいた。登山道なりに歩き出したのだが、どうもガイドブックの記述と違うようで、すぐに参考にならないことが分かった。(後で分かったことだが、ガイドブックでは登山口まで林道が難路ながらも続いていることになっていたが、現実は崩壊のため林道の形態が無くなっていた。)そうなると地形図を持っていないので手探りのように登山になってしまった。ただ大谷川沿いの小径には足跡があって心配せずに歩いて行けた。ところが次に登山口を見落とす誤りを犯してしまった。そして現在地を確認しようと左岸の斜面を登る第三の過ちを犯し、結果として五蛇池山に登ってしまった。その五蛇池山は強烈なシャクナゲのヤブを登ることになり、下山も身の危険を感じる急斜面下りとなってしまった。そして二度の滑落を起こしてしまった。一歩間違えておれば大怪我では済まないとろころだった。幸いにも突き指程度の怪我で済んだが、全身の疲労感はこれまでに経験したことが無いほどで、数日は全身がきしむように痛んだ。それが一週間と経たないうちにもうその痛みを忘れて、何としても蕎麦粒山を登ろうとの気持ちが湧いてきた。もう登山口までのコースは分かったので、心配は天気のみだった。その天気は予報では曇りと思わしくなかったが、午前は晴れ間もあるとの予想だった。そこで午前のうちに山頂に立ってしまえばまずまず楽しめるのではと期待して出かけることにした。先週の五蛇池山は単独行だったが、今回はパートナーも一緒に登ることになった。
朝の名古屋の空はどんよりと曇っており、視界はモヤのきついものだった。少し心配しながら車を走らせたが、揖斐川沿いの車道を北上する頃には、雲間から陽射しが漏れるようになっていた。そして池田町から揖斐川町へと進むうちに空は淡い色ながら青空が半分ほど占めるようになった。但し高い山にはガスがかかっていた。そのガスも次第に薄れるのではと淡い期待を持ちながら登山口へと近づいた。名古屋を6時前に出たため、登山口に着いたときは、まだ7時を過ぎたばかりの時間だった。午前の早い時間に山頂に立ちたく、いそいそと支度を整えてスタートした。正面には蕎麦粒山が見えており、まずは一安心だった。上空にガス雲が多かったが青空も見えており、いくぶんガスは薄れているようにも思われた。一週間前に歩いたばかりとあって、先週とは大違いで何の心配も無く大谷川沿いの登山道を歩いて行った。8時半には登山口に着いて、そこで軽い朝食をとった。そこに着けたことで第一目標は達した思いだったが、どうも空の具合は良くないようで、いつの間にか空はガス雲が広がっており青空が消えていた。まずは主尾根へと支尾根の登りにかかった。けっこう急斜面だったが、フィックスロープもあり、特に厳しいと言う感じは無かった。朝の冷気が快く、むしろ軽快に登って行けた。シャクナゲが灌木ヤブとなっている所もあったが、五蛇池山に比べると何ともかわいらしいヤブだった。そのためか、あまりヤブコギをしている感じも無かった。ただ天気は悪い方向に変わっていた。登るほどにガスは下がってきて、主尾根に出る頃には東向かいの五蛇池山の稜線はガスに隠されるようになっていた。そして小蕎麦粒山の分岐点ピーク(一ぷく岩)に着く頃には、周囲にもガスが立ち込め出した。それを見てどうもこのままではガスの山頂になるのではと悪い予感がしたが、ここまで来たことでもあり、とにかく山頂を目指すことにした。その辺りから尾根の様相は変わって灌木ヤブからネマガリダケの笹ヤブとなった。その笹ヤブ程度なら兵庫にも多くあるので、まずはガマンをしながら笹を起こしたりかき分けたりと進んで行った。ただガスは更に濃くなって、空が暗い感じになってきた。薄れても蕎麦粒山の一部が現れるだけだった。もう義務感のような感じで山頂を目指した。ヤブコギが続いたが惰性で進んでいる感じだった。そして山頂手前の急坂もただ登るのみの感じで通り越して、一ぷく岩から70分ほどで山頂到着となった。そこは狭いながらも平らになっており、周囲は丈の低い灌木だけだった。どう見ても展望の良さそうな山頂だったが、ガスで何も見えなかった。足元の三角点を見るだけだった。リベンジとばかりに蕎麦粒山に再挑戦したのだが、山頂に立ってみたもののあまり征服感は無く、むしろ敗北感のような気持ちが起きてきた。そして天気のことを今少し考えておればと何とも悔やまれた。そのちょっとモヤモヤとした気分のまま下山とした。ただここでぼんやり下ってはガスの中とあって、先週以上に大変なことになるので、方向を間違えないように慎重に下って行った。そして少しは気持ちを切り替えて、八分程度に進んでいる尾根の紅葉を楽しむことにした。それが慰めとなって、さほど退屈せずに尾根を戻ることが出来た。皮肉なことに、大谷川へと支尾根を下る頃にガスが薄れ出して、東向かいに五蛇池山が眺められるようになった。そして大谷川沿いを歩き出す頃には、朝と同様、周囲の尾根にはガスは見られなくなっていた。行きも帰りもあまり休まず歩いたことでもあり、14時を過ぎた時間に登山口に戻り着いた。そして北を見ると蕎麦粒山がすっきりと見えていた。それを見て、何としてももう一度蕎麦粒山を登らねばと、新たなチャレンジの気持ちが湧いてきた。
(2006/10記)(2021/12改訂) |