島の山を登るときは、その山頂から島の姿を展望出来ることが楽しみの一つだが、石垣島の前嵩は標高としてはごく低山となるが、その楽しさがありそうに思えて、ぜひ登りたいと思った。石垣島へ山行に向かったのは2011年1月20日のこと。この日の石垣空港到着時間は13時半だった。そこで易しい山を一つ登ろうと考えた。夕暮れまでには5時間以上あったが、移動時間を考えて、2時間程度で往復出来る山を登ることにした。島の姿も知りたく、そこで前嵩が最適ではと思われた。この日の石垣島の天気は雨の予想だったが、予定通り降り立った石垣島の空は、雲が多いながらも陽射しもあって、穏やかな天気だった。すぐにレンタカーを借りて前嵩に向かった。ガイドブックの「沖縄県の山」には南麓の位置にグリーンパークがあり、その道に入ると登山口があるとなっていた.。県道79号線を走って14時過ぎに現地に着いたものの、なぜかグリーンパークが見当たらなかった。そのため川平集落まで走ってしまい、見過ごしたかと思って引き返したが、やはり見つからない。もう一度、崎枝から丁寧に走ったが、やはり川平集落までにグリーンパークの標識は無かった。このままでは時間が経つばかりなので、この日は前嵩を諦めることにした。そして目標を急きょ屋良部岳に切り替えたて、この日の登山を終えた。
翌21日は朝から雨。しかも強い風を伴っての雨だった。そこで登山は諦めて、観光で過ごすことにした。まずは石垣島の北端にある平久保崎までドライブとした。途中では横殴りの雨だったが、平久保崎まで来ると雨は弱まっており、傘を差さずとも気にならない程度になっていた。平久保崎を離れて伊原間湾に近づく頃には、天気は更に回復して雨は止んでくれた。そこで一つ登山をしようと、帰路に立ち寄る形で野底岳の登山を楽しんだ。この野底岳はちょっぴりハードさのある登山だったが、ごく低山でもあるので、下山を終えても13時前だった。そこでもう一つ小さな山を登ることにした。そして急きょの形で決めたのが、前日に断念した前嵩だった。その前嵩が近づいたとき、せっかく川平湾のそばまで来ていたので、登山前に川平石崎までドライブを楽しんだ。そして野底ビーチ側からの前嵩の姿も眺めたところで、登山口へと向かった。今度はガイドブックと2万5千分の位置の地形図「川平」を見比べて、慎重にナビをセットした。ナビのままに着いたのは、前日に何度も通り過ぎた所で、立入禁止の標識がある所だった。当然グリーンパークの看板は無かった。立入禁止とあったが、柵がある訳でもないので、どんな所かと車をその脇道に入れると、すぐに広い場所に出た。そこに車を止めて車道の先の様子を探ると、車道はすぐに終わって、後は幅広の山道が始まっていた。その登山道の方向は北になっており、まさに前嵩に向かうことになる。これが前嵩の登山道と確信した。どうも進入禁止となっていたのは、グリーンパークが見えないことから、グリーンパークを取り壊すためだったのではと思えた。今は工事は終わっているようで、車をそのまま止めていても問題無さそうだった。時計は14時を回っていたが、前日の屋良部岳と比べると、ずっと早いスタートだった。空は曇り空で雨は降っていなかったが、曇り空だけに薄暗い山道だった。その山道には、点々と電信柱が立っていた。山頂に電波塔があるので、それのためかと思われた。その山道から程なく小径が分かれた。そちらが登山道と、標識が立っていたので、その小径に入る。小さな沢を渡ると、沢の左岸を小径は続いた。ごく細い道だったが、歩きにくい所はコンクリートで固められており、一種の遊歩道になっていた。その周囲の木立は鬱蒼としており、ごく低山とは思えない樹林の濃さだった。ここまでで登った屋良部岳も野底岳も同じような樹林だったので、石垣島は低山と言えども侮るわけにはいかないと思えた。登るうちに急坂になってきた。コンクリートで補修されているだけでなく、階段となって登り易くされている所もあり、無理なく登って行けた。その急坂が終わると、一気に平坦な道になった。コンクリートの道として南へと続いており、そのまま歩くと、NHKの電波塔の前に出た。どうも山頂とは違う方向に歩いたようで、ガイドブックを見ると、平坦になるポイントで山頂への道が分かれていたようだった。そのNHKの位置は特に展望が良いとは言えなかったが、その先へも道は続いており、そちらに向かうと民放の電波塔の前に出た。こちらの方が展望が良く、西に崎枝湾を、南東方向には中央部の山並みが眺められた。一番高いと思われる山は、山頂を雲に隠されていたが、それが於茂登岳かと思われた。その左手にはっきり姿を見せているのは桴海於茂登岳のようだった。電波塔の建物のそばから眺めていたのだが、そこは風を強く受けることになり、風に負けじと展望を楽しんだ。いっときを電波塔の位置で過ごした後、前嵩の山頂を目指す。急坂が終わった位置まで戻ると、細い登山道が分岐しているのが見えた。入口が狭く、いきなり斜面を登るようになっていたので、少し分かり難くなっていた。木に掴まりながら登って行く。ちょっとマイナーな山道を登る雰囲気になった。最後にロープを伝って尾根に出た。右手の山頂方向に向かうと、すぐに尾根はリュウキュウチクに覆われ出した。びっしりと言った感じで生えており、それに隠れるようにして登山道が続いていた。もうササを押しのけるようにしないと歩けないので、ちょっとしたヤブコギだった。そして一番高いと思われる所に三角点があった。そこが前嵩の山頂だったが、周囲をすっかりリュウキュウチクが囲んでおり、展望の悪い山頂だった。ちょっと失望する思いだったが、そのササに隠れるようにして岩があったので、その上に立ってみた。するとササの上にいきなり抜け出したようになり、一気に展望が広がった。足下には青い海の川平湾が見えている。その左は川平石崎まで一望だった。右手には先ほど電波塔から見た於茂登岳の山並みがそちら以上にすっきりと眺められた。ガイドブックに展望が良いと書かれていたのは以前のことかと思いかけたときだったので、思いがけない感じでの風景との出会いだった。但し、電波塔の位置よりも風は更に強いようで、岩の上に長くは立っていられなかった。そこで立っては降り、立っては降りを何度か繰り返した。その山頂の眺めから、この前嵩が石垣島の姿を知るのに、一番最適ではと思えた。強い風に当たっていると寒さを覚えたので、山頂には15分ほど居ただけで下山とする。下山は登って来た道をすんなりと引き返すのみ。登って来るときは標高260m程度の山とは思えぬ手応えがあったのだが、下るとなると早く、どんどん下ると25分で駐車地点に戻ってしまった。やはり山としては小さいようである。その小粒なことよりも、山頂で出会えた風景の素晴らしさが圧倒的で、登って良かったとうれしさがじわじわと胸に広がってきた。
(2011/2記)(2019/3改訂) |