沖縄本島の山となると中北部に集中しており、特に北部は「やんばるの森」として広大な面積を占めている。その「やんばるの森」を遠くから見ると、大きな丘のうねりの中に丸みを帯びた山がぽつぽつと見えていたり、中心部の与那覇岳にしても、その一帯で大きな固まりになっているように見えており、いわゆる峻険な姿をした山は見えない。
2006年1月10日に「やんばるの森」の盟主と言える与那覇岳に登ったのだが、それは午前で終えて、午後は沖縄本島の最北の山、辺戸岳に登った。後はホテルのある沖縄本島中部の恩納村へと戻るだけだったが、辺戸岳から下山したときがまだ14時を過ぎたばかりの時間だった。そこで帰路として「やんばるの森」を貫く県道2号線を走ってみることにした。道路地図を見ると、沖縄北部の山岳部を横断している主要道はその県道2号線だけで、西海岸側の与那地区から始まり、中央部を越して普久川ダム湖のそばを過ぎ、そして県道70号線に合流している。その県道2号線沿いに名の付く山としてフエンチヂ岳と照首山が地図に見られた。このうちフエンチヂ岳が名前として面白いので、近づいた折りに登れるものなら登ろうと考えた。その後は東海岸側を走って帰路につこうと考え、そこで県道2号線は西海岸側から入ることにした。辺戸岳を離れて西海岸へと回り込み、与那の交差点で国道58号線を離れた。県道2号線は主要道とあって、二車線道路で続いていた。カーブこそ多かったが、きつい坂もなく、「やんばる」の中央部へと登って行く。ところでレンタカーを借りていたのだが、今のレンタカーは必ずカーナビが付いている。カーナビはずばり目的地に行けて便利なのだが、どうもカーナビばかり眺めてしまって、地形を覚えるのがおろそかになってしまう。その理由で自分の車には付けていないのだが、今回はこのカーナビが役に立った。「やんばる」は主要道こそ県道2号線だけだが、林道が縦横に走っており、カーナビの地図を眺めると、フエンチヂ岳は山頂まで車道がついているようだった。そこで目的地をフエンチヂ岳にセッティングすると、後は画面の経路に従うだけだった。フェンチヂ岳に近づくと、県道を離れて林道へ入った。林道と言っても舗装路であり、道幅もあり楽なものだった。くねくねと進んで行くと、左手となる南の方向に電波塔の建つピークが見えた。それがフェンチヂ岳のようである。カーナビに従ってフェンチヂ岳が間近になったとき、その山頂へとまた林道が分かれていた。その林道を車で走ってしまえば登山にならないので、分岐点の路肩に車を止めて、そこより歩き出すことにした。その山頂へと向かう道路も幅4m以上あり、「やんばるの森」に居るとは思えぬ雰囲気だった。それが歩き始めたとき、始めに南の方向に展望があって、そこから見える風景は亜熱帯林が鬱蒼としており、やはりここは「やんばる」だと思わす風景だった。展望があったのは始めだけで、後は車道の両側は樹林に塞がれた。その車道を数分も登れば山頂が近づいて来た。始めに小さな電波塔が一つ。そこを過ぎて左手に曲がると山頂が見えて来た。山頂には二つの大きな電波塔が建っており、道はそこで終わっていた。電波塔の名称で、ここがフェンチヂ岳であることを確認しようとしたところ、名称としては「中頭中継所」とあるだけで、どこの所有とも書いていなかった。山頂に着いてまず考えたのは、三角点を探すことで、電波塔のそばにあるものと探ってみると、それが見当たらない。そうなると周囲の木立に入って行くことになるが、そちらは下草が繁っており、そのためにヤブコギはしたくなく、探すのはあっさりとあきらめた。そしてせめて展望を得ようと辺りを見回したところ、一つの電波塔のそばのみ展望が開けていた。但し、電波塔を囲むフェンスにしがみついての展望だった。そこから見えたのは東側の風景だった。少しモヤがかった視界の中に、ただただ「やんばるの森」が広がっていた。それにしてもフェンチヂ岳の名に惹かれて来たのだが、どうも安易に登って来ただけに、ごく平凡な山頂の出会いになってしまった。もう長居をする気持ちも起こらず、10分ほど佇んだだけで引き上げることにした。この後は再び県道2号線に戻り、東海岸側へと向かった。県道70号線に出ると
、後はひたすら南へと車を走らす。国頭村から東村へと走る間はほとんど人家も見えず、山と丘の風景、そして畑地が広がる風景と言ったのんびりとした風景で、沖縄本島の北部がまだまだ自然が多く残されていることを知った。
ところで帰宅後、フェンチヂ岳一帯の地形を知りたく、改めて地形図を見たのだが、どうも現地で見たことと違っていた。地形図では山頂には三角点記号が載っていた。それはよいとして、地形図には電波塔の記号が載っていないのである。それと車道が山頂を越して、今少し北西へと延びていた。現地ではカーナビを使って正しく山頂に立てたと思っていたのに、これでは違う山に立っていたのかと一瞬疑った。しかし地形図ではフエンチヂ岳周辺に電波塔を持つ山は見えず、疑問ばかりが頭に浮かんで来た。ともかくGPSを信じて、確かにフエンチヂ岳山頂に立ったのだと信じたい。
(2006/1記)(2019/8写真改訂2) |