西表島の最高峰、古見岳を登ったのは2020年1月の22日だった。ガイド本「分県登山ガイド・沖縄県の山」を参考にして相良川コースを登ったのだが、その日山頂を離れて下山に移ったとき、山頂近くで二人の若い登山者とすれ違った。聞くとユチン川コースを登ってきたとのことだった。ガイド本にはユチンの滝は紹介されているものの、その先も登山道があって古見岳に通じていることは書かれていなかった。今回の古見岳を登るに当たっては一日を予備日としており、22日に古見岳をスムーズに登れば23日は軽いトレッキングとしてマリユドゥの滝、カンピレーの滝と二つの滝を訪れる考えでいた。それが古見岳のユチン川コースを知って、出来るだけ登山をしたいこちらとしては、同じ山を登ることになるのだが、ユチン川コースの方に興味が急速に膨らんできた。15時前に相良川コースの登山口に戻って来ると、すぐにユチンの滝コースの登山口に向かった。ユチン橋を渡るとその先に数台分の駐車スペースがあるのを見たが、ユチンの滝に関する標識は全く無かった。その駐車スペースのそばに私有地があり、二人の若い人が草刈りをしていたので、ユチンの滝コースについて聞いてみた。駐車スペースは一般車も止めて良く、やはりユチンの滝を訪れるときは利用されているとのこと。またすぐ近くから登山道が始まっているとのことだった。ユチンの滝までの所要時間は一時間半ほどで、やはりその先も目印テープがあって古見岳まで行けることも確認した。それだけ知れば十分で、23日は改めて古見岳をユチン川コースで目指すことにした。前日と同じホテルに泊まり、23日は前日とほぼ同じ時間にホテルを離れると、ユチンの滝コースの登山口には8時半前に到着となった。この日は前日よりも天気は良くなっており青空も見られたが、それでも雲の多い空だった。そのユチン川コースの登山の様子は下の写真帳をご覧いただきたい。気温は少し高めで、前日より2℃は高いようで樹林帯の気温は18℃ほどあった。ユチンの滝までのコースは一般的な登山道歩きではと気楽に考えていたのだが、これがけっこうアップダウンがあり、しかもナメとなった沢筋を登ることがあって、一度足を滑らせて靴をすっかり濡らしてしまった。そのナメの先で出会ったのがユチンの滝だった。そこまで1時間半かかっていた。ユチンの滝は三段になっており、優美の言葉がぴったりの滝だった。これで滝の上に出れば後は川筋をのんびりと歩いて行けると考えていたのだが、これが大間違いだった。滝の上に出ると後はずっとユチン川に沿って歩くのだが、相良川のときと違って易しい登山道歩きは無かった。また相良川と同様に何度も徒渉することになって、その徒渉は概ね飛び石伝いで渡れたが、石が苔むして滑り易くなっており、パートナーが靴を滑らせて水没したのは二度や三度では無かった。しかもその沢にも山ヒルは多かった。もう山ヒルなど気にせずひたすら目印テープを追ってユチン川を遡上した。こう厳しくなるとは思っていなかったので、ユチン川沿いを歩くのが何とも長く感じられた。その遡上を続けているとき、突然のように古見岳の標識が現れた。そこが沢筋を離れるポイントで、滝の上に出てから50分近くが経っていた。後は普通の山道を登って古見岳に向かえるものと思ったのだが、急斜面登りとなってもまだ小さな沢筋をに沿って登ることになり、岩場の登りも多くあって気を抜けなかった。それまでは谷筋のために陽射しを受けることはほとんど無かったのだが、斜面を登るようになって陽射しをよく受けた。そのためけっこう汗をかきながらの登りだった。周囲はすっかり亜熱帯林で、それに包まれて登って行く感は悪いものでは無かった。ひたすら山頂を目指して登ると漸く普通の山道を登るようになり、峠に着いて相良川コースと合流した。そこから山頂までは前日と同じ道で、リュウキュウチクの中を登って山頂に出た。前日に立ったばかりとあってとうとう山頂に立てた感よりも、これで漸く休める感の方が強く、ただただ一安心の思いだった。天気は良くなっており、上空から北の空は青空が広がっていた。南の空はまだ雲が多く、そのため山頂に陽射しが広がるのはときおりだった。それでも青空の下で休めたので、前日とは違った雰囲気の中で過ごせたのは良かった。山頂では前日と同様に展望を楽しみ軽い昼食をとった。そして山頂で35分過ごした後、下山に移った。この日もピストン登山だったので、再び長々とユチン川源流部を歩くことになった。但しユチンの滝まではどれくらい歩けばよいのか分かっていたので、気分的には楽だった。それでも前日からの疲労が蓄積していたので、飛び石伝いに歩くときは往路以上に注意を払って歩いた。その疲れをユチンの滝が再び癒してくれた。その帰路では滝の最上部にあった展望地で休憩をとったのだが、そこからは青い海が足下に眺められた。何とも穏やかな風景だった。滝の下に出ると午後の滝は光を浴びて光っており、午前の眺めよりも美しいと思った。その後はガイド本のユチンの滝コースを往路と同じく歩いたのだが、足の疲れはMAX状態になっており、気楽な気分での下りでも無かった。ひたすら登山口に着きたい思いで歩いた。下山を終えて駐車場に戻ってきたのは15時半のこと。山頂での休憩時間を除くと前日の相良川コースは5時間半、この日のユチン川コースは6時間半だったので、どちらのコースも厳しいコースだったと言えた。体感的にはユチン川コースの方が厳しかったかと思えた。なお山ヒルのことを気にする余裕もなく歩いたのだが、駐車場に着いて足下を見ると、やはりスパッツに数匹が貼り付いており、一カ所血を吸われた跡が残っていた。なお、この下山中に天気はどんどん良くなっており、駐車場から見上げる空はほぼ雲の無い快晴だった。その空を見て麓から古見岳を改めて眺めたくなり、県道215号線を走って後良橋から、そして前良橋からも古見岳を眺めた。快晴の空の下で見る古見岳は気品のある姿をしており、登って良かったとの思いを改めて強くした。
(2021/10記) |