2013年12月のクリスマスの週は台北へハイキング旅行に出かけたのだが、失敗は季節を読んでいなかったことだった。台湾でハイキングをするには涼しい季節が良かろうと12月を選んだものの、台湾は沖縄と同じく冬は雨の日が多くなることを考慮していなかった。そして旅行日が近づいて分かったことは、滞在期間はずっと雨か曇りの天気になることだった。それでも暖かい国で千メートル程度の山ならさほど厳しくはならないだろうと思っていたところ、ハイキング初日の23日に訪れた陽明山国立公園の七星山(1120m)は暴風雨の登山になってしまった。山頂の気温は8℃まで下がっており、雨と風と更にガスに包まれた山頂に立っていると、夏の日本アルプスの山頂に立っている思いになってしまった。それでも道中で見かけた樹木や植物は亜熱帯性のもので、南の山を登っている実感を感じられたのは良かった。翌24日はフリーとしており、観光をしても良かったが、手頃なハイキングが出来ればとも考えていた。七星山から市内に戻り、ホテルの最寄り駅となるMRTの東門駅を降りて改札を出たところ、そばに置いてあったのがMRT沿線の観光地を紹介したパンフレットだった。絵地図が載っており、そこには日本のガイドブックでは見なかった台北のハイキングコースが幾つか描かれていた。ホテルの近くにもその一つがあり、興味が出てきた。それは東門駅より五つ先の駅となる象山駅から始まる象山へのハイキングコースだった。象山は標高183mの低い山だが、ハイキングコースはその背後の300m台の尾根へと続いており、ロングトレイルで楽しむことも出来そうだった。翌日も雨の予想だったが、300m台の山なら無理のないハイキングが楽しめそうだと、二日目もハイキングで過ごすことにした。
24日の朝は天気予報の通りに雨で迎えた。雨と言っても小雨程度だった。前日と同様にホテルは9時前に離れて、MRT東門駅より信義線の象山駅行きに乗り込んだ。終点の象山駅から一つ手前の駅名は「台北101/世貿駅」となっており、その名からして台湾一の高層ビルである台北101ビルはすぐ近くにあり、きっと尾根から眺められるのではと思った。象山駅の駅前に立つと、象山親山歩道への案内標識が立っていた。すぐに歩き出す前に、雨の降り方が少し強くなっていたので、駅前の中強公園にあった東屋で雨具を着込んだ。登山口までは十数分。どんなコースが始まっているのかと思っていたところ、いきなり石作りの階段を登ることになった。その石段登りがずっと続いた。どうやらすっかり遊歩道として整備されているようだった。気温は13℃と低めながら、石段を登る分には軽く汗をかく感じで、無理なく登って行けた。振り返ると、予想していたとおりタイペイ101ビルがどんとばかりに見えていた。こんな雨の日に登る人などほとんどいないのではと思っていたのだが、前後に絶えず人を見かけた。そのほとんどが老人だった。どうやら年寄りのかっこうの運動コースになっているようだった。象山は象山崗とも呼ばれるようで、山頂が近づくと大きな岩が目立つようになり、それを巻くようにして登ると、登山口から20分ほどで象山の山頂に出た。そこは木立に囲まれて展望は無かったものの、そばに展望台があって、そこからはタイペイ101ビルだけでなく台北市街が一望だった。但しモヤがあってごくうっすらとしており、遠方は何も見えなかった。方位盤があってそれを見ると、晴れた日には陽明山も見えるようだった。ところで登山道のそばにはポイントとなる所で案内図があり、この先には獅山、虎山、豹山と動物名の付いた小山が描かれていた。それを見てこの地域を四獣山と呼んでいるのではと推測した。象山を越えると四つ辻が現れ、そこからは南東の方向、拇指山に向かえるコースに入った。相変わらず石段の道で、まずは鞍部へと下った。前方に尾根を望めるはずだったが、すっかりガス雲に包まれていた。途中までは緩やかだった遊歩道が登り坂になったとき東屋が現れた。そこで一休みをしたのだが、間近に観音像の背中が見えていた。その観音像に興味が湧いたので、コースを離れて観音像の前に立ってみた。観音像以外にもたくさんの羅漢像も置かれており、むしろその姿の方が面白かった。登山コースに戻ると巻き道となり、拇指山が近づくと急階段を登るようになった。その途中で展望台が現れたので立ってみると、そこからはガスしか見えなかった。その中にごくうっすらと台北101ビルの姿が見えたときがあったので、暫く立ってみることにした。すると少しは願いが通じたのかガスが薄れだした。そして台北101ビルだけでなく、象山や麓の町並みが少時だったが現れたのはうれしかった。その展望地を離れると、急坂を登りきって南港山の尾根に出た。登山道は一気に緩やかになって、そして最初のピークが拇指山だったが、そちらは尾根コースとは少し離れており、別のコースに入って近づくことになった。途中からは露岩が現れて、ロープを伝いながら登った。ようやく登山をしている感じになった。拇指山の山頂は岩場になっていたため、雨で滑り易くなっており、けっこう慎重さを必要とした。それにしても一帯の露岩が落書きだらけ(当然漢字ばかりだが)だったのには驚かされた。そこはてっきりガスの山頂と思っていたのだが、ガスが薄れており、予期していなかった南の尾根が現れていた。尾根コースに戻って尾根歩きを続ける。緩やかな尾根の上にきれいな遊歩道が付いているとあって、気楽なハイキングだった。ときおり雨中のハイキングを楽しむ人とすれ違った。また登り坂となって、次に現れたピークを南港山と思ったのだが、南港山はまだ先だった、一度鞍部へと下ることになったが、そのとき前方のガスが薄れて、次のピークの姿が望めた。それが南港山のようだった。その山頂には電波塔が建っていた。鞍部へと下り、登り返して南港山の山頂へ。そこはピークと言っても無線塔があり木立も多いため、通過点の雰囲気だった。南港山と分かったのは山名標識があったためで、三等三角点も置かれていた。次に向かうピークは九五峯で、尾根の最高峰だった。南港山とは距離が近いために、すぐに九五峯に近づいた。九五峯に着くと、ここが九五峯だとばかりに、山頂の岩に九五峯の名が彫られていた。ここにも無線塔があり、山頂より一段低い位置だった。そのそばには休憩所があったのでそこで遅い昼休憩とした。九五峯まで歩いて、予定していたピークは総て踏んだことになるので、後は下山に向かうだけだった。下山は暫くは尾根コースの続きを歩いた。相変わらず遊歩道歩きだった。雨は霧雨程度になっており、ほぼ傘は要らなくなっていた。ガスも薄れており、ときおり現れる展望地からは台北市街だけでなく、遠く陽明山の姿もごくうっすらとながら望めた。その展望のことよりも、この下山コースでは色々な建物を見かけるようになって、そちらに関心が向かった。始めは茶屋が多かったが、道教の廟を見かけるようになった。尾根コースから北に向かえる虎山自然歩道が分かれると、そちらに入った。そのコースでも道教や仏教の寺院を見た。虎山自然歩道で市街地に出るつもりでいたところ、途中で気が変わってトラバースコースで象山方向に向かうことにした。トラバースコースは一つだけでなく枝分かれしていたため、適当に歩き易そうなコースを辿った。そのうちに途中からは車道を歩くようになって、少しハイキングをしている感じは薄れてしまった。それまでにも幾つか道教寺院を見ていたが、車道が終点になった所に立派な道教寺院が建っていた。それは北星寶宮で中もきらびやかだった。ただ人影は無く、代わりに放し飼いの犬を何匹か見た。どうやら番犬のようだった。その北星寶宮からは遊歩道で麓を目指したのだが、またまた立派な道教寺院に出会った。今度は天寶聖道宮で、北星寶宮よりも一段と大きく、何とも道教の盛んな所だと感心した。天寶聖道宮からは車道歩きとなり、住宅地域へと入っていった。そのまま市街地へと思っていたところ、象山の永春崗登山口が現れた。そこに地図があり、それを見ると丘の上にある永春岡公園を通る方が象山駅に早く着けることが分かった。そこで永春岡公園を目指すことにした。暫く階段を登って行くことになり、下りに慣れた足は少々重かった。永春岡公園からは急階段で麓へと下りて行った。麓はマンションやビルが並んでおり、どちらに向かえば駅に近づけるのかと心配するところだが、何とも大きな目印があった。それは台北101ビルで、間近に見上げるようにして眺められた。それを目印に歩くと大きな通りに出ることになり、その大通りで台北101ビルに向かって行くと、僅かな距離で象山駅に着くことが出来た。ずばりと言った感じで戻って来られたようだった。結果として5時間ほどのハイキングをしており、何とも面白いハイキングを楽しめたの思いで、象山駅へと入って行った。
(2014/3記)(2020/4改訂) |